佐竹真紀子Makiko Satake
風の背、波の背
“りんご台風”とも呼ばれる平成3年の台風19号から30年。はじめて訪れた弘前のまちで、当時の様子やその後の暮らしを訊ねました。昨日のことのように鮮明な記憶。時間が経って複雑さや曖昧さがまじった記憶。語られた記憶やそれを聞いて抱いたイメージを、絵と言葉で表現しています。本作の絵は、絵具を塗り重ねて彫刻刀で彫って描いています。色の層を過去の時間になぞらえて掘り返しているとき、風景というものが、それまでの時間の積み重ねでできていると実感します。今年は東日本大震災から10年を迎える年でもあります。30年目と10年目。風のあとと波のあと。ふたつの異なる出来事ですが、となり合わせると、互いのもつ心境や風景を結びながら眺めることができるかもしれません。ふたつの土地と時間を渡り、想起する部屋になればと思います。
佐竹真紀子Makiko Satake
美術作家。1991年宮城県生まれ、在住。2016年武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻油絵コース修了。人びとに聞く暮らしの情景や、震災後の東北で目にする風景から着想を得て表現を思考する。2015年より数年間、被災した沿岸地域にバス停留所を模したオブジェを設置する《偽バス停》シリーズを制作。また、土地と協働しながら記録を考える組織・一般社団法人NOOKとしても活動中。主な展覧会に、2021年「3.11とアーティスト:10年目の想像」(水戸芸術館現代美術ギャラリー/茨城)、2021年「若手アーティスト支援プログラムVoyage 波紋のかなたに」(塩竈市杉村惇美術館/宮城)、2017年「VOCA展 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」(上野の森美術館/東京)